特撮映画界の果て、もはやインディーズという言葉の本来の定義すら溶けて失われる領域に、彗星のごとく(あるいは宇宙から降ってきた歪な破片のごとく)鎮座する怪物的傑作がある。それこそが酒徳ごうわく監督の手による奇作『頭角戦隊アタマイザー5』だ。
まず、絶対に間違えてはならない基本事項から叩き込もう。タイトルの末尾に冠された数字の「5」は、決して「ファイブ」などと気取って発音してはならない。これは「ゴー」と読む。この一読で、勘の鋭い特撮ファンならピタリと察するはずだ。そう、本作はかの『アクマイザー3』をはじめとする昭和怪人・ヒーロー群像や、あるいは魔界の裏切り者集団が紡いだダークヒーローの系譜とは何の関係もない。本作は、どこまでも純然たる、そして徹底的に狂い咲いた「戦隊」なのだから。
そして、この映画の宇宙へと足を踏み入れようとする哀れで幸福な迷い人たちに、先達として唯一絶対の警告を授けておきたい。もしあなたが本作の存在を小耳に挟み、予備知識ゼロの状態で好奇心に目を輝かせているのなら、まず何よりも先に前作『頭脳戦隊クビレンジャー』を観鑑賞しなければならない。順番を乱してはならない。『アタマイザー5』から逆順で観てしまうような暴挙に出れば、あなたの脳内の特撮文脈と映画的カタルシスの秩序は二度と元には戻らなくなってしまう。一生取り返しのつかない事態に陥るのだ。映画史において「鑑賞順が人生の狂いをもたらす」作品は極めて稀だが、酒徳ごうわくの描く「首」特撮シリーズだけはその数少ない地雷原の筆頭と言える。
さて、肝心の「お話」について語ろう。 物語の骨子を端的に表現するならば――驚くなかれ、「クビレンジャー」と全く同じである。 以上。 あまりの投げやりさに「ドリフのコントかよ!」とスクリーンに向かってツッコミを入れざるを得ない。前作で散々使い古されたフォーマット、壊滅的な物語構造、そして天丼のように繰り返されるプロット。だが、まさにそこが良いのだ。前作の破天荒な骨組みをそのまま居抜きで使い回しながらも、観客が「またこれか」と油断した瞬間に、鋭利で意味不明な角度から意表を突きまくってくる。DVD等に収録された特典映像も含め、作品全体に漲る「映画というメディアを弄び、観客の脳を直接揺さぶる」悪意と愛の同居したエネルギーは、今回も完全に我々の想像を超えてくる。
公式のログライン、そして伝説的なキャッチコピーを思い出してほしい。
「岡六直撃! 飛び系5色の首と胴の首! 惑星規模の巨悪な影に『瞬殺5頭アタック』で挑み、脆くも散った頭脳戦隊クビレンジャー。 ……それとは全く関係なく。 アタマ星の国王ヘッダーは永い眠りから目覚め、『頭角戦隊アタマイザー5』になるべくして選ばれた5人の若者を地球から召還した。 そう彼らこそアタマ星人の血を引く子孫だったのだ!」
このあまりにも無慈悲で支離滅裂な世界観設定の爆発力はどうだ。前作『クビレンジャー』において、地球を脅かす惑星規模の巨悪に立ち向かい、必殺の「瞬殺5頭アタック」を放ちながらも文字通り脆くも散っていった英傑たち。その壮絶な討死と感動(?)を「それとは全く関係なく」の一言で切って捨てる無情さ! 前作の犠牲とドラマを1秒で灰燼に帰せしめるこの圧倒的コペルニクス的転回こそ、酒徳ごうわくという異能のクリエイターが持つ真骨頂である。
前作で提示された「特撮インディーズの極北」という異名は、本作において「極北のさらに向こう側の絶対零度」へと更新された。人喰い映像作家の異名をとる酒徳監督が今作で解き放ったのは、前作を微かに、しかし確実に凌駕する問答無用の「映像ギャグ」と、あまりにも稚拙で、それゆえに狂暴な輝きを放つ「特殊効果」の嵐である。
チープという言葉すら生ぬるい。ダンボールと発泡スチロール、そして家庭用ビデオカメラの限界を超えた極彩色のエフェクト処理。物理法則も遠近法も無視して画面狭しと飛翔する「五色の首」。それらは洗練された現代のVFXに対するアンチテーゼなどという気取ったものではなく、制作者の脳内にある「面白い映像」をそのまま現世に召喚してしまったかのようなナマモノの毒気を孕んでいる。まさに「『五色の首』の都市伝説、未成年は凝視せよ!」という煽り文句に偽りなしだ。思春期の多感な時期にこの映像体験を脳に焼き付けられた者は、二度と普通の特撮ヒーローものには戻れない体質に変貌してしまうだろう。
本作の狂気を支えるスタッフ・キャスト陣のクレジットを熟読すると、さらに底知れぬ沼の深さに眩暈がする。
監督・脚本・編集:酒徳ごうわく
撮影:酒徳ごうわく・加藤善浩
美術:酒法ごうわく(※名義の揺らぎすら怪しい)・佐藤さん
CC(カラー・コーディネート / クラッシュ・クリエイション?):太田文平
ロゴデザイン:MASAHIRO ITO
協力:どんぱちプロダクション・映像温泉芸社
出演:酒徳ごうわく、星野佳世、荒木区他
声の出演:小原茂樹、野田美弘、宮川ひろみ、酒田一浪、松下有美
ほぼ全編にわたって監督自身が画面を侵食し、撮影、美術、編集に至るまで手作りという名の執念で塗りつぶされている。美術クレジットにさらりと交ざる「佐藤さん」という苗字のみの脱力感や、「どんぱちプロダクション」「映像温泉芸社」というアングラ特撮・インディーズ映像シーンの怪脈を感じさせる協力陣の並び。そして声優陣による妙に熱量の高い熱演が、チープな映像に不可解な「本物感」と「不気味な説得力」を与えているのだ。
劇中で繰り広げられるアクションシーンは、もはや「戦闘」ではなく「頭部を用いた概念の殴り合い」である。胴体から離脱した首が5色(赤・青・黄・桃・緑という王道でありながら、画面上では異様な存在感を放つ色彩)の軌跡を描いて敵に突撃するカットの連続。物理的な重力や運動量を完全に無視したその挙動は、アニメーションの躍動感とも特撮のワイヤーアクションとも異なる、映画史の死角から飛び出してきたような衝撃を観客に与える。
それでありながら、本作の根底には「昭和特撮への歪んだ、しかし根深い愛」が脈打っているのを否定できない。東映特撮や円谷プロが長年築き上げてきた「変身」「合体」「ヒーローの苦悩」「宇宙からの使命」といった記号群を、徹底的に解体し、切り刻み、自らの手で不格好に再構築する。その作業はまるで、無邪気な子供がプラモデルを粉々に壊して接着剤で巨大な塊に組み上げたかのような、純粋ゆえの恐ろしさに満ちている。
観終わった後、あなたの手元に残るのは、一体何だったのかという深い困惑と、なぜかもう一度あの「飛び系5色の首」の飛翔を見たくてたまらなくなる中毒症状だけだ。『頭脳戦隊クビレンジャー』から続くこの暗黒の「首」特撮大系は、メジャーシーンの洗練された映画制作からは決して生まれてこない、衝動と熱量だけで突っ走る映画の原初的体現である。
未成年よ、そして映画に退屈したすべての大人たちよ、覚悟を決めて凝視せよ。アタマ星の国王ヘッダーが誘う『頭角戦隊アタマイザー5』の狂熱は、今なお我々の脳髄を直撃し続けているのだから!
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