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サバイバル・アクションというジャンルは、映画芸術が到達した至高の「人間の業(ごう)と狂気」の展示場である。人智を超えた大自然の牙と、そこに突っ込んでいく人間の身の程知らずな欲望。この二つが正面衝突した時、スクリーンには血と汗と泥、そして何とも言えない愛おしいポンコツぶりが立ち昇る。そして、その極致とも言える怪作こそが、邦題『バーティカル・ハンガー』、英題『What Lies Above』、あるいは真の真名たる『Snowman’s Pass』である。
映画の幕開けは「デッドマンズ・パス(死人の峠)」ならぬ「スノーマンズ・パス(雪男の峠)」だ。主人公ダイアナ(演じるは『ベイウォッチ』等の水着で世界を沸かせたニコ−ル・エガート)は、婚約者のブライアンとともに雄大な山々を散策している。散策と言うにはあまりに断崖絶壁、ハイキングと言うにはあまりに決死の行程なのだが、二人は至って気楽だ。スノーマンズ・パスの観測小屋で唐突に始まる濃厚なイチャイチャタイム。そして「ここで言う!?」という絶妙なタイミングでのプロポーズ。だが、サバイバル映画の神様は生ぬるい幸福を絶対に許さない。プロポーズの余韻も冷めぬ数秒後、ブライアンは滑落し、呆気なく崖下に消えていく。あまりの秒殺ぶりに、観客は悲劇の涙を流す暇すら与えられない。愛する男の死を前にしてなお、Nicole Eggertのビジュアルが良すぎて画面の緊張感がフワフワ漂う奇跡のオープニングだ。
さて、ここからが本当の謎である。ダイアナが救助隊を呼んで現場に戻ると、ブライアンの遺体は影も形も消えていた。野獣に喰われたのか? カニバリズムの餌食か? いや、観客の心に浮かぶ真実は一つ。「結婚という重圧に耐えかねたブライアンが死を偽装して逃げ出したのではないか」という疑惑だ。だが映画はそんな細かい伏線回収など歯省き、2年の歳月を一気に飛ばす。
ここで満を持して登場するのが、B級アクション映画界の生ける伝説、マーク・シンガー演じるカート・シーヴァーズである! カートは言う。「我が社が開発した人捜し用の最先端衛星技術を使えば、失踪したブライアンの遺体を見つけられる」と。胡散臭さのメーターが振り切れている。だが、マーク・シンガーの眼力と無駄すぎる圧倒的説得力の前に、ダイアナはあっさりとこの誘いに乗ってしまう。
パーティの面々もまた香ばしい。カートのボディーガードであるヒューゴ(マイク・ドプド)は、画面に映った瞬間に「俺は悪党です!」と全身で主張しているようなツラ構えをしている。背中に悪魔の尻尾とツノが見え隠れするレベルの露骨さだ。そしてもう一人のメンバー、タイラー(ジョージ・ストゥルツ)。彼はコンピューターの専門家であり、クライミングの専門家であり、イケメンの専門家でもある。何でもできるパーフェクト超人だ。観客としては「おいおい、ブライアンという重荷が消えたダイアナと、このタイラーがくっつけば最高じゃないか!」と画面の前で全力のカップリング(タイラナ)推しを開始せざるを得ない。
山に入れば案の定、カートの正体が牙を剥く。人捜し衛星というのは真っ赤な嘘。彼の真の目的は、このスノーマンズ・パスに墜落した敵国のスパイ衛星を回収することだったのだ! マーク・シンガーに騙されていたとは!……いや、うすうす分かっていたが、彼のアクションと怪演を見せられると「騙されてやってよかった」という謎の満足感が込み上げる。こうして、事態は一気に「絶壁のサバイバル・バトル」へと雪崩れ込んでいく。
山中での攻防は怒濤のクライミング・アクションと、取って付けたような1個だけのブービートラップによって展開される。ダイアナの覚醒ぶりはまさに『ダイ・ハード2』のジョン・マクレーンだ。「なんでまた私だけがこんな目に遭うの!?」という理不尽なデジャヴ。タイラーとダイアナが良い雰囲気になった瞬間にタイラーが崖から突き落とされるという、悲劇を通り越して爆笑を誘うドタバタ劇。しかし安心されたい、タイラーはこの程度の落下では死なないタフガイだ。カートとヒューゴの極悪非道な立ち回りも、アクション映画の美徳として完璧に機能している。
映画を見終わった後、誰もがタイトルについて深い思索に耽ることになる。『Snowman’s Pass』という原題は確かに素晴らしい。しかし、最大のツッコミどころが存在する。劇中の山には、雪が欠片も積もっていないのだ! 「スノーマン(雪男)」という名称の由来について、劇中では「昔、ロバと2人の仲間を食べた金鉱掘りのスノーマンという男の幽霊が出現する」という、カニバリズム満載の怪談で補完される。雪が降らないスノーマンズ・パスで、幽霊の恐怖に怯えながら、マーク・シンガーとニコ−ル・エガートが泥臭い肉弾戦を繰り広げる。これぞ90〜2000年代B級サバイバル映画の至高の醍醐味と言えずして何と言おうか。
大自然の脅威、ガバガバなプロット、キャスト陣の輝かしい魅力、そして絶妙なツッコミどころの数々。本作はサバイバル・アクションというジャンルが持つ「真面目にやればやるほど面白い」という奇跡の結晶体であり、観る者の心を熱く滾らせてやまない傑作である。
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