テレビ映画の金字塔か、あるいはB級映画界の「極北」の産物か。1998年、FOX TVが放映し、日本でも地上波深夜枠(あの懐かしきVOXやテレビ東京のシネマ枠!)でひっそりと、しかし強烈に脳裏に刻み込まれた怪作がある。その名も『マラブンタ』(原題:Legion of Fire: Killer Ants! / 別名 Marabunta)。
極寒のアラスカに、なぜか南米産の肉食キラーアリ「マラブンタ」が大量発生し、人間を骨までしゃぶり尽くす。このあまりにも無茶苦茶な前提と、90年代末期の粗悪なCGI、そして異様な熱量で演じ切る豪華(?)キャスト陣が織りなすカオスは、今なお私たちのB級映画魂を滾らせてやまない。本作が残した罪深き爪痕と、爆発的なツッコミどころの数々を徹底的に解剖していこう。
映画史に残る「大真面目な前振り」と壮大な矛盾
映画は、まるで社会派ドキュメンタリーかのような重々しいナレーションと警告文で幕を開ける。
「アリは地球上で最も繁栄した生物であり、その脅威は我々のすぐそばに迫っている……」
視聴者に「これから恐ろしい恐怖体験が始まるのだ」と錯覚させるこの仰々しいプロローグこそ、本作最高の爆笑ポイントの一つだ。なぜなら、これから描かれるのはドキュメンタリーでも科学的シミュレーションでもなく、ただのアラスカを舞台にしたドタバタ蟻惨劇だからである。
物語の舞台は、アラスカの長閑な町バーリー・パインズ。釣りをしにやってきた昆虫学者のジム・コンラッド博士(エリック・ルーツ)は、森の中で信じられない光景を目撃する。なんと、わずか数時間前まで生きていたはずのヘラジカが、見事に骨だけの惨状と化していたのだ。しかも川には魚が一匹もいない。
本来なら南米アマゾンのジャングルに生息する最強の肉食アリ「マラブンタ」が、なぜアラスカに? 劇中の説明によれば、「数年前に座礁した船に乗っていたアリが休眠状態となり、近年の地熱活動(地中の火山活動)によって暖められて目覚めた」という。
ツッコミどころが多すぎる。まず、数年間アラスカの凍土で耐えていたアリの生命力が異常であり、地熱で温まったからといって大量増殖して街一つを襲うまでに至るスピード感が狂っている。だが、そんなロジックを気にしていてはこの映画は楽しめない。
地獄の惨劇と、容赦なき「人身御供」たち
本作の素晴らしいところは、B級映画としてのテンポの良さだ。もったいぶることなく、開始早々から犠牲者が続出する。
特に語り草となっているのが、冒頭のハネムーンカップル惨殺事件だ。森の中でロマンチックな写真撮影を楽しんでいた新婚夫婦。妻がポーズを決めるために登ったのは、よりにもよって超巨大な蟻塚の上。案の定、妻は蟻塚の中に引きずり込まれ、助けようとした夫もろともアリの餌食となる。
さらに素晴らしいのは、後年の名作『アザーズ』や『オールモスト・フェイマス』でブレイクするパトリック・フュジットのデビュー作としての姿だ。彼は町が生んだ最悪のクソガキ(いわゆる「イジワルっ子」の象徴のようなキャラクター)を演じているのだが、なんと映画開始30分足らずであっさりとアリに食われて退場する。子供だろうが容赦なく惨殺するテレビ映画の心意気(?)には拍手を送りたい。
また、街の老女のピンクの指が切断され、それをアリたちが数匹で「わっしょい、わっしょい」と運んでいく映像表現は、酷すぎるCGIも相まって、怪作映画ファンにとって愛おしくてたまらない名シーンとなっている。
無駄に豪華なキャスト陣と「真面目すぎる演技」の温度差
『マラブンタ』を単なる駄作から「愛すべきカルト」へと押し上げている最大の要素は、役者たちの無駄な熱演である。
主演のエリック・ルーツ(『キャロライン in Style』などでおなじみ)は、爽やかなイケメン科学者として、どれだけバカバカしい展開になっても一切笑わずに真剣な表情を崩さない。なぜか他人の殺害現場(?)で解剖を始め、顕微鏡を覗いて「これはマラブンタの顎だ……!」と衝撃の事実を発見するシーンの説得力(とツッコミどころ)は抜群だ。
そして何より素晴らしいのが、地元の保安官ジェフ・クロイを演じたミッチ・ピレッジ(『X-ファイル』のスキナー副長官役でおなじみ)である。彼はこの低予算テレビ映画において、まるでクリストファー※請確認是否動物毛皮。動物毛皮製品屬於華盛頓條約条約牴觸物品,無法國際運送。・ノーラン監督作に出演しているかのような重厚な演技を見せる。最愛の妻を亡くした男の哀愁と、町を守るリーダーとしての責任感を完璧に表現しており、彼が登場するだけで映画の格が二階級ほど上がった錯覚に陥る。
ヒロインの小学校教師ローラを演じるジュリア・キャンベル(『ロミーとミッシェルの場合』の嫌味なプロムクイーン役)も非常に魅力的で、彼女と保安官、そして都会から来た男前の科学者という奇妙な三角関係(のような空気感)が漂うのも味わい深い。正当に評価すれば、絶対に地元で苦労を共にしてきたミッチ・ピレッジ保安官と結ばれるべきなのだが、ハリウッドの文脈ゆえに都会の科学者と良い雰囲気になってしまうのはご愛嬌だ。
一方で、作品の「B級感」を一人で跳ね上げているのが、デイヴ巡査(ビル・オズボーン)の存在である。彼はまさに映画界における「最悪の無能警官」の代表格だ。アリの大群を前にパニックに陥り、拳銃でアリを一匹ずつ撃とうとしたり、納屋の中で一人で自滅的な罠にはまって自爆したりと、ドリフのコントも青ざめるような迷走を見せてくれる。
支離滅裂な特撮と「歴史的」エンディング
1998年という時代背景を考慮しても、本作のVFX(CGI)は壊滅的だ。 時にアリは大きく見え、時に小さくなり、同じカット内で色やサイズがコロコロ変わる。牛の死体にアリが群がるシーンに至っては、まるで「5歳児が牛の写真の上に黒いクレヨンで点々を描いた」かのような凄まじいクオリティであり、一周回って感動すら覚える。
だが、クライマックスのアクション展開の怒涛のラッシュは、視聴者を退屈させない。
そして、誰もが語り継ぐ伝説のラストカットへと突入する。
火炎放射器も化学薬品も効かないアリの大群を滅ぼすため、主人公たちは「ダムを爆破して街ごと水没させる」という正気を疑う作戦を決行する。先祖代々の土地を守るネイティブ・アメリカンのグレイ・ウルフ(ドン・シャンクス)が手投げダイナマイトでダムを爆破し、見事に街は津波のような濁流に飲み込まれ、アリもろとも全てが吹き飛ぶのだ。
街を救うために街を木っ端微塵破壊する――。この本末転倒な大豪快さだけでも満点を与えたいが、本当の恐怖(と爆笑)はその直後に訪れる。
無事に生き残ったジム博士は、壊滅した街を見下ろしながら晴れやかな顔でこう言い放つのだ。
「これで大丈夫だ。生き残ったアリたちも、地下深くへ潜り、少なくとも10年間は出てこないだろう……」
10年後にまた出てくるのかよ!!
つまり、彼らがやったことは「街を一つ全滅させて、惨発を10年先送りにしただけ」なのである。アリたちがカレンダーを持っていて「よし、10年経ったから地上に出るか」と計画しているとでも言うのだろうか。この提示される圧倒的な徒労感と、なぜかハッピーエンド風に爽やかに締めくくられるラストのギャップには、全視聴者がズッコケること間違いなしだ。
総評:B級映画という名の愛すべき無駄骨
『マラブンタ』は、決して映画史に輝く傑作ではない。むしろ『放射能X』のような名作モンスター映画と比べれば特撮は貧弱であり、脚本はスカスカだ。
しかし、90年代後半という「VFX過渡期」の徒花として、そしてテレビ映画特有の「CM突入前の無駄なサスペンス演出」や「突拍子もないアクションの詰め込み」を凝縮した純度100%の娯楽作として、本作は実に輝かしい。
切断された指を運ぶアリ、ミニバイクで逃げる昆虫学者、銃を乱射する泣き虫警官、そして10年後の再訪を約束して地下に消える殺人アリ――。
疲れた日の夜、ビールとポップコーンを片手に、突っ込みを入れながら観る映画として、これ以上の選択肢が他にあるだろうか? チープだが愛おしい、90年代アニマル・パニックの秘宝。機会があれば、ぜひこの爆裂的なカオスを体感してほしい。