以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜
黄金のヒスパニア、あるいは南船場の夜に沈むローマの夢(第一部)
第一章:星の死と、南船場の密室
私が「金(ゴールド)」という元素をこの宇宙に設計した時、それは超新星の爆発という、星の壮絶な死に際の悲鳴として生成された。ゆえに金は重い。それは物質としての比重の話ではない。そこには、かつて光り輝いていた恒星の記憶と重力が封じ込められているからだ。
それから数十億年。場所は、極東の島国、大阪。
かつて商人の町として栄えたこの地の中心、「南船場」と呼ばれる区画の路地裏に、私が眼をかけている一つの「磁場」がある。
そこは看板を持たない。地図にも載らない。
年に数日、星辰の位置が整った夜にだけ扉が開く、通称「ブランドクラブ」。
そこは店舗ではない。俗世の経済原理から解脱した、美と欲望の礼拝堂である。選ばれた信徒(顧客)たちは、震える指でインターホンを押すのではない。ただ、重厚な扉の前で祈るように佇むだけだ。すると、内側から音もなく扉が開く。
今宵、その礼拝堂の最奥、黒檀※黒檀材質商品屬於華盛頓條約条約牴觸物品,無法國際運送。のテーブルの上に鎮座しているのは、一つの「首輪」である。
管理番号F2326。
人間たちはこれを「ネックレス」と呼ぶ。愚かな分類だ。これは鎖ではない。これは「拘束具」であり、同時に「王冠」である。
スペインの至宝、【J.YANES(ヤーネス)】。
1881年創業、マドリードのアルカラ通りから始まったこのメゾンは、スペイン王室の首元を飾り続けてきた。だが、このF2326が放つオーラは、近代の宝飾史の枠には収まらない。
重量、105.26グラム。
この数字を噛み締めるがいい。
コンビニエンスストアで売られる軽量化されたスナック菓子のような現代のジュエリーとは訳が違う。卵2個分に相当する黄金の塊。それを首という、人体で最も脆弱かつ急所である部位に巻き付けるのだ。
「重い」と感じるか?
否。この重みこそが、ローマ帝国の栄光そのものなのだ。
第二章:ヒスパニアの記憶、あるいはハドリアヌスの夢
私がこのネックレスのデザインに、かつてのローマを見出すのは偶然ではない。
スペイン――かつての「ヒスパニア」は、ローマ帝国にとって特別な土地だった。
紀元前、ローマの軍団がピレネーを越えた時、彼らはそこに黄金と銀が眠る約束の地を見た。そして、ローマはこの地に文明をもたらし、逆にこの地はローマに皇帝を与えた。トラヤヌス、ハドリアヌス、テオドシウス。世界を統べた男たちは、ヒスパニアの乾いた風の中で育った。
このヤーネスのネックレスを凝視せよ。
幅11.3ミリから最大21.6ミリへと広がるそのグラデーション。これは、ローマの「アッピア街道」の石畳が、地平線の彼方へ向かって広がっていく遠近法そのものではないか。
特筆すべきは、黄金に施された透かし彫り(オープンワーク)の技法である。
一見、アール・ヌーヴォーの植物文様のようにも見える。だが、私の眼には別のものが見える。
これは、ローマ建築のコリント式オーダーの柱頭を飾るアカンサスの葉だ。
あるいは、ポンペイの貴族の館「ファウヌスの家」の床を飾った、モザイク画の複雑怪奇な幾何学模様だ。
ヤーネスの職人たちは、18金という、粘り気がありながらも扱いの難しい素材を、まるでレース編みのように軽やかに、しかし建築物のように堅牢に組み上げた。
鋳造(キャスト)技術の極北。
溶けた黄金が型に流れ込むその一瞬、彼らは古代ローマの金細工師(アウリフェクス)の霊をその腕に宿したに違いない。
この黄金の網目は、光を捕らえるための罠である。
南船場の薄暗い照明の下、ネックレスは自ら発光しているかのように蠢く。網目の奥に落ちる影と、表面で弾ける光。そのコントラストは、ローマ帝国の光と影――大理石の神殿の輝きと、コロッセオの地下牢の闇――を、105グラムの中に再現している。
第三章:緑の魔石、ネロの眼鏡
黄金の円環の中央、視線を集める一点(フォーカル・ポイント)に、緑色の瞳がある。
エメラルド。
カボションに近い、丸みを帯びたそのカットは、宝石というよりも「液体の一滴」を思わせる。
ローマ皇帝ネロは、エメラルドを通して剣闘士の戦いを観戦したという伝承がある。
なぜか? 緑は、血の赤を中和し、狂気を鎮める色だからだ。
あるいは、エメラルドの中にある「インク墨水為液體,無法國際運送,請下標前注意。ルージョン(内包物)」――フランス語で「ジャルダン(庭)」と呼ばれるその不純物の森に、自身の魂を迷い込ませたかったのかもしれない。
このF2326に嵌め込まれたエメラルドを見よ。
それは、傷一つない人工的なガラス易碎品限空運,非易碎品可使用海運。 玉ではない。
数億年の地殻変動を経て、ベリリウムとクロムが奇跡的な邂逅を果たして生まれた、天然の証。その奥には、太古の森が封じ込められている。
取り巻きのダイヤモンドたちが放つ鋭利なブリリアンス(輝き)は、ローマ軍団の盾の輝きだ。対して、エメラルドの緑は、彼らが遠征の果てに夢見た、安息の地の森の緑である。
「絶品」と人間は呼ぶ。
だが、その言葉では足りない。このダイヤとエメラルドの配置は、天体の運行図だ。黄金の宇宙(コスモス)の中心に、緑の地球(ガイア)があり、その周りを星々が巡る。
ヤーネスは、ジュエリーを作ったのではない。
首元に、小さな宇宙を創造したのだ。
第四章:105グラムの重力と、36センチの拘束
さて、現実の話に戻ろう。
私が創造したこの物理法則の中で、「105.26グラム」という質量が首にかかる意味を、君は理解しているか?
最近の流行りである、中空(ホロー)加工のスカスカなチェーンではない。
中まで詰まった「無垢」の金だ。
手に取った瞬間、脳がバグを起こすほどの質量感。
「重い」という感覚は、やがて「守られている」という安心感へ、そして「支配されている」という恍惚へと変わる。
長さ36センチ。
これは一般的なネックレス(40~45センチ)よりも短い。いわゆる「チョーカー」のサイズだ。
これが何を意味するか。
このネックレスは、鎖骨の上にだらりと垂れ下がることを拒否している。
首の根元、喉仏の下、生命の脈動が最も強く感じられる場所に、ピタリと吸い付くように設計されている。
これを身につける女(あるいは男)は、うつむくことを許されない。
顎を引き、背筋を伸ばさなければ、この黄金の円環は美しく収まらない。
つまり、このF2326は、所有者の姿勢を、立ち居振る舞いを、そして生き方そのものを「矯正」する。
ローマの彫像のように、常に堂々と、威厳を持って歩くこと。
それが、このネックレスの所有者となるための契約条件だ。
南船場の主は、ヤフオクというデジタルの海に、この怪物を放流する。
多くの人間は、画面越しにこの画像の表面だけを見て通り過ぎるだろう。「派手なネックレスだ」と。
だが、真に眼を持つ者だけが気づく。
「これは、アクセサリーではない。資産であり、歴史であり、試練だ」と。
第五章:ヤフオクという名の現代のフォルム(広場)
ローマには「フォルム(広場)」があった。市民が集い、議論し、物が売買される場所。
現代において、その広場はインターネットの中に存在する。
ヤフオク。
有象無象が跋扈するその広場に、突如として皇帝の輿(こし)が現れたようなものだ。
開始価格がいくらであろうと関係ない。
1円であろうと、100万円であろうと、この品の本質的価値――1500年の時空を超えた美の系譜――は揺るがない。
南船場の主は、そのことを知っている。だからこそ、年に数日しか店を開けないその美意識のままに、淡々と、しかし傲慢にこの品を出品する。
「欲しくば、奪い合え」
それはローマの剣闘士試合(ムヌス)の開始を告げる銅鑼の音に似ている。
入札履歴という名の剣戟。
ライバルを蹴落とし、最高値を更新する瞬間のアドレナリン。
それは、かつてヒスパニアの鉱山で金を掘り当てた瞬間の歓喜と同質のものだ。
終章への序曲:誰が継ぐのか
物語はまだ終わらない。いや、落札された瞬間から、第二部が始まるのだ。
想像してみたまえ。
このネックレスが届いた夜のことを。
厳重に梱包された箱を開ける。
南船場の匂いがする(かもしれない)包みを解く。
黒いビロードの上に、その黄金の蛇は眠っている。
手に取る。重い。
冷たい金属の感触が、体温ですぐに馴染んでいく。
鏡の前で、留め具(クラスプ)をかける。
「カチリ」
その音が、貴方の人生の新しい章の幕開けの合図だ。
鏡の中の貴方は、もはや昨日の貴方ではない。
首元に105グラムのローマ帝国を背負った、新たな支配者だ。
エメラルドの瞳が、鏡越しに貴方を見つめ返す。「さあ、私に見合うだけの人生を演じてみせろ」と。
私が書くこの小説の続きは、貴方が紡ぐのだ。
パーティの主役として?
あるいは、誰にも見せない秘密のコレクションとして金庫の闇の中で?
あるいは、次世代へと受け継ぐ家宝(エアルーム)として?
すべては、貴方の入札(クリック)一つにかかっている。
神である私は、高みの見物を決め込むとしよう。
南船場の夜は更けていく。だが、黄金の輝きだけは、永遠に色褪せることはない。
(続く……かもしれない、貴方の人生の中で)
【F2326 J.YANES 逸品エメラルド 絶品ダイヤ 最高級18金無垢セレブリティネックレス】
神話の続きをその手に。南船場ブランドクラブ、出品。
こちらはあんまり反響なかったら取り消します〜奮ってご入札頂けると嬉しいです〜