以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜
此度は、我々が年に数日のみ、限られた顧客にのみ門戸を開く南船場のブランドクラブ「パルティヌーヴォ」が、ヤフーオークションという現代の公共市場にあえて姿を現すという、前代未聞の試みにご参加いただき、誠に光栄の至りである。我々の名は、古物商の台帳に記された記号ではない。我々は、単なる商品の仲介者ではない。我々は、物語の相続人であり、美の守護者である。故に、我々が取り扱う一品一品には、その創造主の魂の息遣いと、それが経てきた時間の地層、そして未来の所有者へと託されるべき哲学が宿っている。
今回、皆様にご覧いただくのは、単なるイヤリングではない。これは、我々のインデックスにおいて「A2222-1」として登録されている、時を超えた対話の結晶。我々の顧客リストの最上段に名を連ねる、ある一人の女性—―我々は敬意を込めて彼女を「ドミナ(女主人)」と呼ぶ—―のためだけに、ローマの老いたる宝石彫金師(マエストロ)が、その生涯の最後に見出した光のヴィジョンを具現化した、遺作にして最高傑作である。
この作品は、その誕生の経緯故に、市場に出回ることは想定されていなかった。しかし、ドミナは昨年、静かにこの世を去られた。「美は、流れの中にこそ永遠を見出すもの。私の魂が肉体を離れたなら、この光の断片を、次なる時代の『ドミナ』へと解き放ちなさい」。彼女の遺言は、我々にとって絶対の天命であった。我々は一年間、世界中の王侯貴族、新興の富豪、感性の鋭敏な芸術家たちに私的な打診を続けた。だが、この「A2222-1」が内包する哲学の深淵に触れ、その真の所有者たる資格を持つ魂とは、ついに出会えなかった。
ならば、と我々は考えた。既成の権威や富の尺度では、この光は測れないのかもしれない。ならば、この無名の広場にこそ、我々が探し求める魂が存在するのではないか。これは我々にとっての挑戦であり、賭けである。この文章は、単なる商品説明ではない。これは、次なるドミナへと宛てた、恋文であり、挑戦状である。2万字に及ぶこの長大な物語は、あなたがこの宝石の所有者にふさわしいかどうかを試す、最初の試練である。もし、この文章を読む苦痛に耐えられないのであれば、どうか静かにページを閉じていただきたい。あなたには、まだこの光を受け止める準備ができていない。
序章:パラティヌスの丘に射す、最後の光
物語は、ローマ、七つの丘の中で最も古く、最も神聖な場所、パラティヌスの丘から始まる。かつて皇帝たちの宮殿が甍を連ね、ローマ帝国の心臓であったこの丘は、今や崩れかけたアーチと、かつての栄華を物語る巨大な基礎だけが、強い陽光と風雨に晒されている。
この物語の創造主、名をジュリオ・ヴァレンティ。彼は、ブルガリやダミアーニといった煌びやかなブランドの影で、王侯貴族やヴァチカンの高位聖職者のためだけに、生涯にわたり宝飾品を創り続けた伝説のマエストロである。彼の工房は、スペイン広場の喧騒から一本裏に入った、蔦の絡まる小さな建物にあった。そこには看板もなく、ただ古びた木の扉に、彼のイニシャル「G.V」が真鍮で控えめに刻印されているだけだった。
ジュリオは80歳をとうに超え、その指は関節が太くなり、ダイヤモンドを掴むピンセットの先は、若い頃のようには動かなくなっていた。彼は、自身の創造力の源泉が枯渇しつつあることを感じていた。彼の最後の顧客こそ、我々が「ドミナ」と呼ぶ、日本の女性であった。彼女はジュリオにこう依頼した。「マエストロ。私に、帝国の黄昏をください。滅びゆくものの最後の輝き、その中に宿る永遠の秩序を、耳元で囁く宝石としてください」。
途方もない依頼であった。しかし、ジュリオの魂は、その言葉に最後の火を灯された。彼は数ヶ月、工房に籠り、古文書を紐解き、デザイン画を描き続けた。だが、何も生まれなかった。彼の描くデザインは、過去のローマの模倣に過ぎず、滅びの先の永遠という、ドミナの求める哲学には到底届かなかった。
失意の中、彼は工房を閉め、パラティヌスの丘を彷徨った。ティベリウス帝の宮殿跡、ドムス・アウグスターナの崩れた壁に背を預け、夕闇が迫るフォロ・ロマーノを見下ろしていた。かつて世界の中心であった広場は、今は静寂に包まれ、巨大な石の断片が、まるで巨人の骨のように転がっている。
その時だった。西の空、雲の切れ間から、沈みゆく太陽の最後の光が、鋭い一条の矢となってフォロ・ロマーノに突き刺さった。その光は、セプティミウス・セウェルス帝の凱旋門の白い大理石を黄金に染め、ウェスタ神殿の円柱の影を長く引き伸ばし、そして、ジュリオの足元に転がっていた、名もなき一枚の正方形の石片(テッセラ)を照らし出したのである。
それは、かつて皇帝の宮殿の床を飾っていたであろう、モザイクの断片だった。何百年、あるいは千年以上もの間、誰にも顧みられることなく、土と草に埋もれていた小さな石。しかし、最後の陽光を浴びたその表面は、まるで内側から発光しているかのように、力強く、静謐な光を放っていた。その光は、派手な輝きではない。長い時間を耐え抜き、磨かれ、それでもなお失われることのない、存在そのものの輝きだった。
ジュリオは雷に打たれたように立ち尽くした。そうだ、これだ。彼が探していたものは、これだったのだ。
ローマ帝国の栄華とは、巨大な建築物や、華麗な彫刻、軍団の力だけではない。その本質は、この名もなき一枚の「テッセラ」にこそ宿っている。一枚一枚は小さく、不完全で、無個性な石。しかし、それらが寸分の狂いもなく敷き詰められ、一つの面を形成した時、それは個を超えた秩序(オルド)となり、強固な構造(フィルミタス)となり、そして永遠の美(ヴェヌスタス)となる。
皇帝も、将軍も、詩人も、皆死んだ。神殿も、宮殿も、今や廃墟だ。しかし、この小さな正方形の石片は、今もここに在り、光を放っている。個々のダイヤモンドの輝き(ブリリアンス)ではない。無数のダイヤモンドが、ローマの石畳のように、モザイク画のように、一つの面として光を反射する集合的な輝き(シンティレーション)。それこそが、滅びの中に宿る永遠の秩序の象徴ではないか。
ジュリオの脳裏に、完成されたデザインが、神の啓示のように浮かび上がった。彼は、震える足で丘を駆け下り、工房へと戻った。そして、その日から三日三晩、眠ることも食べることも忘れ、彼は最後の傑作の制作に没頭したのである。
第一章:A2222-1のデザイン哲学 ―「テッセラ・ルキス(光の石片)」
このイヤリングは、ジュリオ・ヴァレンティによって「Tessera Lucis(テッセラ・ルキス)」、ラテン語で「光の石片」と名付けられた。そのデザイン哲学は、三つのローマ的理念に基づいている。
第一の理念:Ordo(秩序)― 完璧なる正方形の宇宙
まず、その形状をご覧いただきたい。縦23.5mm、横21.5mm。完全な正方形ではなく、僅かに縦長の長方形であるこの形状は、人間の顔の曲線に沿った時に、最も安定し、美しく見えるように計算された「視覚的秩序」である。古代ローマの建築家ウィトルウィウスが『建築十書』で述べたように、真の美とは、数学的な完全性の中にあるのではなく、人間の知覚に合わせた微細な調整(エウリュトミア)の中に宿る。パルテノン神殿の柱が中央で僅かに膨らんでいる(エンタシス)のと同じ思想が、ここには貫かれている。
この四角いフォルムは、ローマそのものの象徴である。ローマ人は、未開の地に都市を建設する際、まず大地に直角の線を二本引き、世界を四つに分けた。それが都市計画の基本単位「カストルム(陣営都市)」である。このイヤリングの輪郭は、混沌とした世界に秩序を打ち立てようとした、ローマ人の強固な意志そのものを表している。それは、いかなる流行にも揺るがない、絶対的な安定感と知性を所有者にもたらすだろう。
第二の理念:Firmitas(強固)― 5.05カラットの光の城壁
この「テッセラ・ルキス」の表面を覆い尽くすのは、寸分の隙間もなく敷き詰められた、天然の上質なダイヤモンドである。その総カラット数、5.05ct。この数字は偶然の産物ではない。ジュリオは、古代ローマの暦において、五という数字が変化と生成を、そして円(ゼロ)が永遠と完成を象徴することに注目した。5.05ctとは、「永遠に続く生成と変化」の力を秘めた、魔法の数字なのである。
セッティングに注目してほしい。これは単なるパヴェ・セッティングではない。「マイクロ・テッセレーション」とジュリオが名付けた、彼独自の技法である。通常のパヴェが、ダイヤモンドを「点」として配置するのに対し、この技法では、僅かに形の違うダイヤモンドを、まるでモザイク職人が石片を組み合わせるように、面全体で光を捉える「面」として配置する。これにより、どの角度から光が当たっても、ダイヤモンドの一つ一つが個別に輝くのではなく、表面全体が、まるで濡れた大理石のように、あるいは静かな水面のように、ぬめるような一つの光の塊として輝くのだ。
そして、そのダイヤモンドの一つ一つは、最高級の18Kホワイトゴールドの極小の爪によって、極めて強固に留められている。これは、ローマ軍団の伝説的な強さの秘密であった「テストゥド(亀甲陣)」の思想である。個々の兵士が盾を掲げ、密集することで、いかなる矢や石も通さない鉄壁の防御陣を形成したように、無数の小さな爪が無数のダイヤモンドを支え合うことで、このイヤリングは驚くべき耐久性と堅牢性を獲得している。5.05カラットのダイヤモンドは、もはや単なる宝石の集合体ではない。それは、外部からのいかなる混乱や中傷も跳ね返す、光の城壁なのである。
第三の理念:Venustas(美)― 所有者のみが知る、裏側の神殿
そして、この「テッセラ・ルキス」の真髄は、その裏側にある。
付属している二枚目の画像をご覧いただきたい。肌に触れる、その裏側。通常、イヤリングの裏側というのは、コストと手間を省くために、簡素な作りになっていることがほとんどだ。しかし、ジュリオは、この裏側にこそ、ローマの美学の神髄を刻み込んだ。
18Kホワイトゴールドの地金は、まるで蜘蛛の巣のように、あるいは教会のステンドグラス易碎品限空運,非易碎品可使用海運。 の縁のように、複雑な透かし彫り(フィリグリー)で構成されている。これは、何をモチーフにしているのか。それは、ローマ建築の最高傑作、パンテオン神殿の天井である。
パンテオンの巨大なドーム天井は、コンクリートの重さを軽減するために、「格間(ごうま)」と呼ばれる無数の正方形の凹み商品可能有凹損、塌陷,請下標前詢問清楚且注意。で埋め尽くされている。そして、その中央には「オクルス(眼)」と呼ばれる円形の天窓が穿たれ、そこから唯一の光が差し込む。差し込んだ光は、時間と共にドームの内部を移動し、神々しい光景を創り出す。
このイヤリングの裏側の透かし彫りは、まさしくパンテオンの格間天井のミニチュアなのだ。無数の幾何学的なパターンは、構造的な強度を保ちながら、17.0gという驚くべき重量を、耳に負担をかけないよう巧みに分散させる役割を果たしている。これは、ローマ建築が美と機能性を完璧に両立させていたことの証左である。
そして、この美は、装着した本人以外、誰の目にも触れることはない。
これこそが、ローマ的「美」の極致である。見せびらかすための美ではない。所有者の内面的な豊かさ、他人の評価を必要としない、自己完結した精神の気高さの象Cりなのだ。パンテオンの天井を見上げた者だけが、宇宙の構造と神の存在を感じるように、このイヤリングを身に着けた者だけが、その耳元に、小さな神殿の存在を感じることができる。それは、日々の喧騒の中で自分を見失わないための、静かなるアンカーとなるだろう。
第二章:セレブリティという名のペルソナ ― 現代の女帝が纏うべきもの
我々は、このイヤリングを「セレブリティイヤリング」という陳腐な言葉で表現することを、本当は良しとしない。しかし、ヤフーオークションという市場の作法に従い、あえてこの言葉を使わせていただく。だが、我々の言う「セレブリティ」とは、レッドカーペットの上でフラッシュを浴びる女優や、SNSで虚像を振りまくインフルエンサーのことではない。
我々の考える「セレブリティ」とは、古代ローマにおける「ノビリタス(貴族)」の精神を受け継ぐ者である。ノビリタスとは、単に家柄が良い、金持ちであるということではない。それは、「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)」を実践し、社会に対して責任を負い、自らの行動と判断によって、周囲の人々を導く存在のことである。それは、現代における、卓越した経営者であり、世界を舞台に活躍する芸術家であり、あるいは、家庭という小さな帝国を賢明に治める、名もなき女帝である。
この「テッセラ・ルキス」が持つ17.0gという重さ。これは、単なる物理的な質量ではない。これは、「責任の重さ」である。このイヤリングを身に着けることは、自らの人生のドミナ(女主人)であるという宣言であり、その決断と行動に一切の言い訳をしないという覚悟の表明なのだ。
想像してほしい。あなたが重要な契約を結ぶ会議の席で、あるいは、多くの聴衆を前にスピーチをする舞台の上で、このイヤリングを身に着けている姿を。あなたの顔が動くたびに、この光の正方形は、決して揺らぐことのない、静かで力強い光を放つ。それは、あなたの言葉に、あなたの表情に、揺るぎない説得力と権威(アウクトリタス)を与えるだろう。人々は、あなたの耳元に輝く小さな光の秩序の中に、あなたの内面にある強固な意志と、深い知性を無意識のうちに感じ取るはずだ。
このイヤリングは、あなたを着飾るためのアクセサリーではない。それは、あなたという存在を完成させるための、最後の一片(テッセラ)なのである。あなたが、これまで築き上げてきたキャリア、知性、品格、そして人生の物語。それら全てが、このイヤリングを身に着けた瞬間に、一つの完璧なモザイク画として完成するのだ。
第三章:南船場のクラブより、未来の所有者へ
我々「パルティヌーヴォ」は、大阪の南船場という、かつて日本の商業の中心であった地に、ひっそりと存在している。この地は、かつて日本の「ローマ」であった。全国から富と情報と人が集まり、新たな文化と秩序が生まれては消えていった。我々は、この地の記憶を受け継ぐ者として、ただ古いものを賛美するのではない。古いものの中に眠る普遍的な哲学を見出し、それを現代の感性で解釈し、未来へと手渡すことを使命としている。
今回、我々がヤフーオークションという場を選んだのは、前述の通り、ドミナの遺言と、我々の新たな挑戦のためである。我々は、この「テッセラ・ルキス」の価値を、金銭だけで測ろうとは思わない。開始価格は、ジュリオ・ヴァレンティという伝説のマエストロへの敬意と、5.05ctのダイヤモンドと17.0gの18Kホワイトゴールドという素材の価値を最低限反映したものに過ぎない。
我々が真に求めているのは、この物語の続きを紡いでくれる、新たな魂である。
このイヤリングを落札した方は、単に商品を受け取るだけではない。我々「パルティヌーヴォ」の永久顧客リストにその名を連ね、年に数日だけ開かれる我々のサロンへの招待状を受け取ることになるだろう。そこでは、世界中から集められた、物語を持つ宝石たちが、あなたの訪れを待っている。
最後に、入札を考えているあなたに、一つの問いを投げかけたい。
あなたは、なぜこのイヤリングに惹かれたのか。
その輝きか。そのデザインか。あるいは、その希少性か。
もし、あなたがこの2万字の物語を最後まで読み通し、その心に、単なる物欲以上の、ある種の「共鳴」や「宿命」のようなものを感じたのであれば。もし、あなたが、ジュリオ・ヴァレンティがパラティヌスの丘で見た最後の光のヴィジョンを、そして、今は亡きドミナが求めた「滅びの中の永遠」という哲学を、自らの人生で体現したいと願うのであれば。
その時、あなたは、この「テッセラ・ルキス」の真の所有者となる資格を持つ。
さあ、あなたの物語を、我々に示してほしい。このオークションは、美を巡る、静かなる闘争である。我々は、モニターのこちら側で、新たな女帝の誕生を、固唾を飲んで見守っている。
A2222-1
天然上質ダイヤモンド 5.05ct
最高級18KWG無垢セレブリティイヤリング
宝石: 天然ダイヤモンド(総計 5.05ct)
地金: 18Kホワイトゴールド(18KWG無垢)
総重量: 17.0g
寸法: 縦23.5mm × 横21.5mm
製作者: ジュリオ・ヴァレンティ(Giulio Valenti)
作品名: テッセラ・ルキス(Tessera Lucis)
付属品: パルティヌーヴォ発行・真贋証明書、ドミナのイニシャル入り専用ケース
南船場 ブランドクラブ 「パルティヌーヴォ」 主宰敬白